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桂吉坊公式ブログ「坊's 茶屋」


真っ赤になってるストーブが

2011/01/06(Thu)22:47

 さっぶい日の夕方でした。正月もすぎ明日を七草に控えた武庫之荘の米朝宅はガラガラと、雨戸を兄弟子が次々と閉めている。師匠が運転する車から降りて、金魚のフンのようについて行く僕の前に、「池田の猪買い」のような格好の当時内弟子であった兄弟子2人。薄暗い廊下から2階へ上がり、灯りのもれる奥の部屋には、山のように積み上げられた紙、本、書類の前に座る大師匠。座った我々と大師匠との三畳ほどの空間の横には、一台のガスストーブが真っ赤になってシューシュー言っている。よく見ると、ストーブの赤くなっている部分が破裂しており、誰もそれを気にしてないらしいかった。
これ以上は襖で下がれないくらい、師匠の後ろに控えている僕のことには気にも留めず大師匠は一言「緑が死んだな」。文楽太夫であった緑大夫の死去についての話が一通り。
どこまで話は続くのだろうと思っていると、おもむろに師匠が「こいつを入れようと思いますねん」「うむ。もう名前は決まってるんか」。…今日が入門の挨拶の日だとは聞いてなかった上、それに対する「名前は決まってるんか」というさらに軽いこのやりとり。ただただ呆然とする僕に「学校の成績はどやねん」!? あまりの事に、僕の答えも変だった「ぼちぼちです」。大師匠が笑って「ぼちぼちならエエとせんならん」。師匠も顔は笑ってはった(顔だけ)。
帰り道。車のエンジンをかけながら師匠は「名前、考えてな」「え、ええ!?」さらに慌てる僕を乗せて、師匠はいつもと変わらず運転してた。
次の日曜日は、10日。岡町落語ランドは、師匠も舞台の設営をしていた。「おう、お前な、今日から兄さん言うねんぞ」と赤い毛氈を敷いている兄弟子をさして僕に言う。ぎごちないが、入門仕立ての人間の言う口上を教えてもらって繰り返す。
楽屋には、む雀兄と師匠がお互いの入門した日の話をしている。1月10日は十日戎。ゲンのよいことから、本当は14日に入門した師匠は1月10日に入門日と決まったという事だった。おなじように、む雀兄もそうだと言い、そうするうちに師匠は僕の方を向くと「お前、今日から入門!」

かくして、僕の入門日は平成11年1月10日に成り、その月末フェスティバルホールの地下にあったリサイタルホール吉朝独演会、終演後の楽屋廊下で「はい、吉坊です!」といきなり大声で言い放った師匠の一声で名前が決まり、3月14日に岡町落語ランドで初舞台を踏んだ、てなことですわ。

17才。世の中のこと何も知らなかった人間が、一気に大人の世界に飛び込んだ、12年前かあ。

長々失礼いたしました。

そうそう。師匠が亡くなってから、弟子みんなで、稽古場にしてはった部屋を整理に行ったら、スケジュール帳がどさっと出ましてね。弟子の入った年のスケジュール帳は、必ず最後のページに名前の候補がいっぱい書いてありました。
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